私は学生時代ジャズピアノを専攻しておりましたので、ペース・メソッドを取り入れる前は個人レッスンで大人の方へのジャズピアノレッスンをメインで行っていました。
(幼児のレッスンは自分には無理…と、思っていました)
ジャズとはいえ初心者の方へ指導するにはアドリブや、コードなど専門的に難しくなってしまい、伝え方に悩んでいました。
そこで紹介いただきペース・メソッドの内容を知り、とても驚きました。
ブルースに、モード、クエスチョン&アンサー、全調取り扱い。
私自身がジャズ科の音楽大学で初めて学んだようなことが、幼少期より取り入れられていて、なおかつ順序立てて繋がっていること。
すぐに大人の方へ取り入れ、スケールやコードなど無理なく指導する事ができました。
音楽ジャンルにとらわれずバランス良く取り入れられることもあり、ジャズレッスンに関わらず幅が広がり、指導がとても楽しくやりがいのあるものに変わりました。
その後は苦手だと思っていた幼児も、グループでこのメソッドを取り入れ指導したいという気持ちが高まり、幼児からのグループレッスンも始めました。
1人1人にあったテキストや教材を探していた時もありますが、ペースに出会ってからは、「このテキストを使ってどのように目の前の生徒に合わせた伝え方をするか。」に変わりました。
年齢経験関わらず、どんな方へもアプローチ出来得る生涯学習型ピアノ教育のペース・メソッド。多くの先生方や生徒さんたちにペースに出会う縁があったらいいなと願っております。
才能や根気がないと、ピアノが上手にならない、音楽を楽しめない…そんなピアノレッスンに疑問を感じている時に、ペース・メソッドを知り、レッスンに取り入れ始めました。
導入から、上級で必要な色々な事を楽しく、こどもにも解りやすくレッスンをしていくので、中級・上級になった時、音楽的に高いレベルで育っている事に驚いております。
種をまいた芽が、大きく実るように、中学生~社会人の生徒さんまでレッスンを続けてくれていて嬉しいです。
もちろん、導入・初級の生徒さんのレッスンも楽しく行っております。
生徒さんの成長も嬉しいですが、自分自身も楽しく成長している事が、幸せです。
ペース・メソッドとロバート・ペース博士に出会う事が出来、本当に感謝しております。
私は、J先生による全過程の研修を受けてペース・メソッドで数年間教えた後、事情があって日本を離れて約30年間米国に住んでいる者です。今日は、ペース・メソッドの素晴らしさを、アメリカでの私の体験を通してお話ししたいと思います。
まず最初は、ボストンのバークリー音楽大学で出会ったT・Mさんのことです。彼女は、ほぼ毎週末に開かれる学生コンサートに頻繁に出演し、毎学期何らかの奨学金を受けていた優秀な学生でした。演奏能力のレベルの高さはもちろん、音を聞いたらすぐに譜面に書けたり鍵盤で弾けたりする姿を見てまさに彼女こそペースの子だと確信し、「なんという教材で習ったの?」と尋ねると、「教材の名前は覚えてない」と言うのです。概して生徒たちには先生方の影の苦労なんて分からないもの。親の心子知らずで、ペース教授はじめJ先生、S先生や、担当の先生のご苦労など18歳の彼女が知る由もありませんでした。でも私の確信が正しかったことを、ペース•メソッド研究会ジャーナルVol.65のS先生の記事で知りました。TさんはS先生によるペースの子だったのです! 卒業後はジャス系の演奏家になられたようですが、今後も一層のご活躍を願っています。
さて、ペースの生徒さん達が音楽以外の成績も良くなるというのは周知の事実ですが、ここからはその指導者もさまざまな能力が上がるということを自らの体験を通して証明したいと思います。私が40歳を過ぎての留学を決めた時、それは無茶と反対する人もいましたが、実際に挑戦してみると記憶力や即断力は10代の頃よりも確実に上がっていました。自慢話だと受け取らないでいただきたいのですが、バークリーでも、この後述べるテキサス州立大学でも成績はほとんどAで、ゴールデンキー国際名誉協会とPi Kappa Lambdaという2つの名誉協会から賞をいただき、卒業式には大学からMagna Cum Laudeという称号をいただきました。ペースを教えることで開発されたさまざまな能力無しには叶わなかったことでしょう。
次は、テキサス州立大学で受けたピアノのレッスンでの出来事をお話しします。教授にリストの「ラ•カンパネラ」を弾きたいと言うと、作曲科であった私には難しいと思われたのでしょうか、リストを弾きたいのならと、「コンソレーション第3番」を手渡されました。仕方なく、ペースが唱える、先ずは音を出す前に譜面を読むことが習慣になっていた私は、左手のアルペジオに隠れている全音符と二分音符の横のラインにあるべき二分音符が1つ欠けていることに気付き、「ここの2分音符が抜けていませんか?」というと教授は一度は否定したものの、それでは他の出版社のを見てみましょうと言われ2人で他の版を見てみました。するとやはりその二分音符が記されていました。この出来事も、分析の重要性を唱えるペース理論の正しさを証明しています。ちなみに「ラ•カンパネラ」は、当時属していた地元の音楽クラブの月例コンサートで弾かせていただきました。右手が16分音符で2オクターブもの音程にまで跳躍するこの曲を、忙しい学期中に毎日わずか30分の練習で3ヶ月後には暗譜で弾けたのも、ペースで生徒と一緒に、分析はもとより目隠しで鍵盤を掴んで触覚を鍛えたり、和音を様々な転回形で弾く練習をしていたからだと言えます。
次は、楽曲分析のクラスでの出来事です。ある日教授が「今からある曲を流すので、これから私がピアノで弾くモチーフが何回出てくるか数えなさい」と仰ったので、曲が流れ始めると、私はモチーフを数えながらノートに「正」の字を書いていきました。曲が終わって教授が「何回?」と問われた時、30人ほどいたクラスはシーンとして誰も答えませんでしたが、私が「18回」と答えると、それが正解でした。ペースでパターンがどのように展開されていくのかを指導しているうちに、自分にも聴覚によるパターンの認識力が身に付いていたのでしょう。
分析に関する出来事をもうひとつご紹介します。作曲セミナーの教授が、ある日バルトークやドビュッシーが黄金比を使った作品を数多く残していると仰ったので探してみたくなり、ドビュッシーの「沈める寺」を分析することにしました(黄金比についてはJ先生による解説がジャーナルVol.63に掲載されていますね)。先ずは譜面上から全体にかかる時間を概算し、それをA : B=1 : 1.618の黄金率でAからBに移り替わる瞬間のタイムを予測しました。その後、この曲のレコードを聴きながらタイムを図りましたが、その予測していた瞬間は音楽的な意味を持つ箇所ではなく、「黄金比を考慮に入れたピアニストによる演奏を見つけなければ」と思い直してカタログを探していると、ドビュッシー自身が演奏しているものが見つかりました。かなりノイズが入っていましたが、黄金比を見つけるためにはこれに勝るものはありません(今は、ノイズを取り除いたものをYouTubeでも聴けます)。彼自身によるその演奏時間は5分17秒。黄金比を計算するとAからBへの分岐点がちょうど2分目になるはずでした。するとどうでしょう。ppで始まったAの部分が緊張感を持って広音域にうねる左手のアルペジオと共にpへそしてfへと徐々に高揚していくなか、突然高音域で警鐘のように鳴り響くオクターブのフレーズが続いて低音で繰り返され、その低音部で下降するフレーズの最後がわずかにリタルダンドしたかと思うと、これまでで一番低いオクターブ音がアクセントを付けてf fで打たれます。その瞬間がちょうど2分目だったのです。そしてその最低音が、上音部の重厚な和音の連続(パイプオルガンの音とも言われていますね)とともに繰り返され海の底から寺院が劇的に浮かび上がってくる様子を連想させます。曲全体の分析についてはここでは触れませんが、彼自身の録音によるその他の曲を分析すると、さらに見つかることでしょう。私がこれをクラスで発表すると、教授が「君の発表はイーストマン音楽大学の大学院レベルに値するよ」と言ってくださいました。私が黄金比を見つけようと思えたのも、分析の重要性と楽しさを教えてくれたペースのおかげです。
次は、コンコルディア大学ウィスコンシン校の大学院でのことです。必須となっていた古典和声法のクラスのテキストがバークリーで受けたのと同じだったので、単位をいただきたいと教授にお願いしたところ前例がないからと断られましたが、ついに粘り勝ちで、試験に合格したら単位をくださることになりました。その試験とは期末試験に使われていたものでした。制限時間ぎりぎりまで3時間頑張ったのですが最後の1問だけ時間切れとなり、そのまま提出すると、教授は最初から目を通し、「良く出来ている。最後の問題の答えが見たいから15分以内にできるところまで解いてきなさい。」と言われました。その最後の問題というのは、ベルリオーズの幻想交響曲第5番からの抽出で、オーケストラの総譜に和音記号を記入する問題でした。15分で何とか仕上げて提出すると、教授は解答に目を通した後、静かに握手の手を差し延べ、微かに笑みを浮かべながら「合格だ」といって単位をくださいました。これもペースで生徒たちに和音カードを見て弾かせているうちに自分も素早く和音分析ができるようになり、全調を平等に扱う指導と楽譜の音程読みを教えていたことでハ音記号の音符読みが速くできたおかげです。
それでは次に、ペースが私の仕事にどれほど役立ってきたかをお話しします。テキサスに来てから、中・高・大学と地域の合唱団、そして独唱者コンテストのピアノ伴奏に加え、教会でパイプオルガンの演奏と聖歌隊のピアノ伴奏の仕事をしていたのですが、その全てにペースで養われた初見力の強さが大いに役立ちました。ピアノ伴奏の仕事では初見で弾かなければならない状況も多々ありましたが、苦労なく楽しく仕事ができました。毎週日曜日のオルガンの仕事では、讃美歌の伴奏2曲と年間行事に合ったもの1曲以外はある程度自由に選曲できたので、バロック時代の曲を弾くのが好きでした。いくつもの線が横に流れこの時代の曲は、模様読みと音程読みのおかげで、短時間の練習で毎週の仕事をこなせました。米国オルガン奏者組合の礼拝演奏検定試験科目には、課題曲2曲•自由曲3曲の他に初見演奏•移調奏•変奏が含まれていましたが、これらもペースで教えていたことが役立ち、忙しい学期中に少しの準備で合格でき、合格後は教会のお給料が2倍に跳ね上がりました。
今年私は71歳になりますが、業界では世界一大きなホテルチェーンの本社に属し、リモートでウェブサイトの問題解決をする仕事をしています。ここでもペースで養われた分析力•応用力•コミュニケーション力•即断力などが日々の仕事に役立っています。
最後に、ペースの教育理念と指導法普及のために約半世紀にわたって尽力なさり今も現役で教えていらっしゃるJ、S両先生と、毎日生徒さんに向き合っておられる日本の先生方に、ピアノ教育から離れてしまった者として心から感謝の意を述べたいと思います。幸い、パンデミックのせいで去年からどこにも旅をしていないと仰っていた両先生を、今年の夏ケープコッドの海にお連れすることができたのですが、その浅瀬で見つけた大ハマグリをビーチに腰掛けておられたお二人にお見せすると、「可哀想だから海に返してあげて」と小声で優しく仰ったJ先生。巣から落ちていたひな鳥を持ち帰り、その鳥が飛べるようになるまで毎日木の実を集めておられたS先生。ペースの豊かな人間性を養う音楽教育は、教える人をも優しくするのだと納得しました。
ペースのおかげで得られた私の諸体験、最後までお読みくださリありがとうございました。今後もペースの子たちが、職業を問わず日本や世界で幅広く活躍してくれることを願っています。